氷炭_02_3/6

春を待っている。
これは四季の中で春を最も嫌っている私にとっては珍しいことで、しっかりと理由もある。壁に掛かっているビカクシダの板を替えたいのだ。

ビカクシダという植物はそもそも別の樹にくっつくようにして生えるので、大抵のものが板に括り付けるようにして売られている。私のビカクシダもそう。土に植える方法もあるにはあるらしいが、家の中に土を持ち込むと必ず猫が掘り返すので、今のところ考えてはいない。


そのビカクシダの板が割れている。元々弱そうな板だな〜と思っていたが、ある日ばっきり割れてしまった。かろうじ針金でくっついてはいるが、今のビカクシダは2枚の板に跨った状態になっている。早く別の板に移してあげたい。そういった作業は大抵成長期にやるものなので、ビカクシダの成長期である春を待っている。正しくはゴールデンウィークを待っている。

 

春が成長期なら4月、暖かければ3月の終わり頃からできるじゃんって思うじゃん? 北海道は気温が足りないんだよ。

 

北海道の春はゴールデンウィークです。温暖化の影響もあってか最近は早くなってきているけれど、20年くらい前だったら桜もゴールデンウィークに咲いていた。溶け残った最後の雪が消えるのが4月。春は5月。学生時代、北海道を出るまでは「なんで卒業式で桜の歌を歌うんだ。おかしいだろ」と思っていた。
この、ゴールデンウィークを待たなければいけないというのが私のせっかちさと相性が悪い。待てない。でも待たなければ植物を弱らせるだけかもしれない。そもそも、ビカクシダを迎えるのだって春を待つべきだったのに冬に迎えたせいで寒さで弱らせたし…

 

 

 

ここまで書いて放置していたら、今朝方祖母が亡くなったと連絡があった。この1年間は認知症が酷く介護施設に入っていたし、少し前に脳梗塞で倒れて植物状態だったし、覚悟していたことなので悲しくはない。寂しくはあるが、寂しさと悲しさは違う。あんまりしんみりともしていない。人はいつか死ぬものなので。
祖母は激情家で…私自身もちょっと激情家なところあるし、親も妹も従妹もそうなんだけど、それの源流ってここなんだ〜!と思うような人だった。当時としては珍しく韓国人と日本人の間に生まれ、どちらの国でも差別され大変な子供時代だったと聞いた。聞いただけでよくは知らない。
私が初孫だからか、少し特別な繋がりを持っていた自覚がある。愛していた祖父が亡くなった後、心配させるからか子供達には遠慮をし、孫の私に電話をしてきて「早く死にたい。苦しまない自殺の方法を教えて」と言うので「うーん、じゃあ良い方法を探しておくね」と約束していた。ひ孫を見せてやれなかった点については申し訳ないが、いつだったか「ボーイフレンドとか…ガールフレンドとかいないの?」と訊いてきたあたり察していたんだろうと思う。とても可愛い孫だけで許してくれ。

猫のことがあり、長く留守にできないので告別式には参加できない。代わりにほとんど日帰りで顔だけ見に行く。飛行機の予約も取った。悲しくはないけれど、顔を見たらちょっと泣いてしまう気がする。