ライラ_04_23/06/13

実家の猫が二十歳を超えました。祖父が九十一歳なのでどちらが先に死ぬかわかりません。文字通りのデッドレース。

祖父が足取り悪く杖を頼りに歩いているのに比べ、猫はカリカリを食べ、階段を登り、猫扉をぴょんと潜っているので元気に見えます。

ところがお年寄りときたら、ほんの一昨日まで元気にご飯を食べていたのに急に倒れて召されるということがままあるので油断できません。前にいたキジトラの猫は死ぬ一ヶ月前、残飯を盗み食いをしようとシンクの排水溝に手を突っ込んで爪が引っ掛かって抜けなくなり、「助けてぇ……助けてぇ……」と情けなく鳴いていたところを妹が爆笑しながら撮影していました。それからすぐ蝋燭が燃え尽きてしまったみたいに弱って動けなくなって、私にすぐ帰宅しろと連絡が来ました。新幹線の中でどうかどうか間に合ってくれと祈り、駅から直に動物病院へお見舞いに行ったのを覚えています。馴染みの獣医さんが、「危なかった。間に合ってよかった」と優しい眼差しで言ってくれました。猫は痩せ細り、病院のケージの中でぐったりしていました。喧嘩っぱやくてお茶目な彼が弱りきっているのがショックでした。皮と骨ばかりになった身体だけでなく、目が違いました。黄色からヘーゼルのグラデーションをした彼の瞳が、辛い、苦しい、と訴えていました。痛々しくて私は泣きました。

危篤になってからもどうにか生き延びさせようと点滴をしてもらったり、高カロリーなフードを食わせようとしたりしましたが、今思えば死ぬ前に家でたっぷり甘やかして、彼の大好物だった海苔を食べさせてやればよかったです。最後はぜえぜえと荒く息をしていて、私が抱き上げた瞬間に胃の中のものを吐き出して亡くなりました。苦しそうな終わり方でしたが、臨終の瞬間に私が抱き締めていられたのは幸運だったように思います。

今実家で元気に生きている二十歳の猫は、特に好物がありません。チュールでさえ好きではありません。ウェットフードもあまり食い付きがよくありません。強いて言うならシーバのキャットフードは好きなようです。何か猫におすすめの食べ物ありますか?

人間もそうですが、食べられなくなると彼らはあっという間に死んでしまいます。病気になったり高齢になったりして、弱ってからどれだけ生き延びるかは、どれだけ食い意地が張っているかに比例する気がします。栄養って大切。

夜、三〜四時間おきに起こされています。猫がまるで悲鳴のような大声をあげて人間を呼ぶからです。私は呼ばれる度に、ご飯をあげたり、撫でたり、ブラシをかけたり、トイレ掃除をしたり、腹を揉んだり、外を見せたり、腰を叩いたり、部屋をぐるっと歩くのに付き合ったりします。あまりにも眠くて行き倒れた振りをしてみるのですが、猫は許してくれません。耳元で腹の底からにゃお!にゃお!と鳴くのです。朝が来て猫が落ち着いて眠ったらで寝ます。限界です。育児や仕事をしていて眠れない全ての人間に昼寝をして欲しい。

でも仕方ありません。彼女は高齢で、体はしんどいだろうし、何か要求があっても喋れないんだから。もし会話できたら認知症になっていたりするのかしら。わからないけれど、若い頃と比べて毛並みは少しだけ悪いし、耳は遠くなっています。音がほとんど聞こえていないみたい。頭の真後ろで手を叩いても、ぴくりとも反応しませんから。そのおかげか、掃除機をかける度に目をまんまるにして耳を伏せて、大騒ぎで逃げ回っていた若い頃が嘘のように、掃除中もすやすや寝ています。そのことを考えると喋れなくてよかったのかも。耳が聞こえてないと会話をするのは大変だからね。

 

ところでさっき猫が吐きました。とっさにフローリングに運んだのですが、一気に吐くのが難しいらしく、三回くらいにわけて丸ごとのカリカリから液体っぽいものを吐きました。ちょっと不調なのかも。

その割にすぐご飯をくれと騒ぎ、今は母に撫で回されて満足した顔で寝ています。

 

とにかく猫の寝ている姿は愛らしい。幸せの形をしている。幸福とはかくあるべし、という寝姿です。

冬になると同じ布団で寝てくれるので幸せはひとしおです。

ちなみに猫と寝るのなら大きなベッドがおすすめです。シングルだと確実に身体を痛めます。私は高校生時代に首をやらかしました。でも可愛いから許しました。

 

ここまで、そろそろ日記が回って来そうだと書き溜めておいた文章です。

ちょっと書き足します。

 

猫、元気です。寝ています。さっきまで私がお腹を揉んでいました。大抵の猫は腹を触られるのを嫌がりますが、彼女はお腹の調子が悪いと人間にマッサージして貰いたがります。むしろ腹を触らないと不満げにします。

彼女と暮らすのは苦ではありません。昼寝はしたいし、食事中も撫でなければいけないのでもう一本腕が欲しくなりますが。わがままなおばあちゃんだけど、猫っていうのはどんなにわがままでも年寄りになっても可愛い。愛される生き物です。

ふわふわで幸せの体温を感じられるのも、長くてもあと五年くらい、短ければ今この時、これが最後かもしれない、と覚悟をしながら猫のぬくぬくした毛を撫でて、ごろごろ喉を鳴らす音を聞いています。幸福の象徴。温もりの具現化。長生きしてくれて本当にありがとうね。膀胱炎を繰り返し、神経質で臆病で、運動嫌いで、おデブだった君がこんなおばあちゃんになるまでこの家にいてくれるなんて思ってなかった。ありがとう。

あと千年生きて。

 

話は変わりますが、近くの駅ビルにユニクロが入りました。服難民の私にとっては最高です。あと近くに百均と家電屋と銭湯ができれば完璧です。

交差点にあった海鮮系居酒屋がコロナ禍で潰れてしまって残念。早く次のお店がオープンしないかな。日本酒が美味しいお店がいいです。ワインが美味しいお店はもうあるので。薬局が近距離に四店舗くらい大集合してるので、一つくらい百均になってもいいんじゃないかと思っています。ダイソーとセリアがあると嬉しい。百均なんてなんぼあってもいいですからね。あとスタバもできました。朝早くからオープンしていてかかりつけ病院の近くにあるのでこれまた最高です。モーニングしつつ順番待ちができます。

うちの近所にこんなものがあったらいいなって思うものは何ですか?

私は酒蔵が欲しいです。蔵で買うお酒って美味しいですよね。